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正味の磁化がほとんどない新しい磁性は、どこまで研究が進んだのか

アルターマグネティズムの証拠、RuO₂の論争、2026年の探針とX線の成果、電気的制御の実験条件を区別して検証する。

CAUSIFOLD · 2026-10-19

赤い上向きの磁気モーメント2個と青い下向きの磁気モーメント2個を配置し、薄い楕円で異なる結晶の方向性を示した三次元模型。
アルターマグネティズムの概念図。反対向きの磁気モーメントは相殺される一方、結晶対称性によって電子状態に方向依存性が生じうる。実測した原子構造や電子軌道の画像ではない。

正味の磁化がほとんどない新しい磁性は、どこまで研究が進んだのか

物質内の磁気的な性質を持つ原子が規則的に並んでいても、物質全体が強い磁石のように振る舞うとは限らない。原子の磁気モーメントが逆向きなら、その効果は互いに打ち消し合う。一方で、内部の規則的な配列は残りうる。

近年注目される**アルターマグネティズム(altermagnetism)**は、そのような磁気秩序の一つである。全体の磁化はほぼゼロでも、結晶の方向によって電子のエネルギー状態に明瞭な違いが生じうる。

情報記憶への応用も期待される。異なる磁気秩序の状態を0と1に対応させ、電気的に書き換え、読み分けられれば、記憶素子に利用できる。小さい磁化は周辺素子への磁気的干渉を減らす可能性もある。ただし、実用メモリーでこれらの利点が実証されたわけではない。1

2022年にアルターマグネティズムが理論的に体系化されると、二酸化ルテニウム(RuO₂)が有力候補となった。しかし、一部の試料を精密に調べた後続研究は、予測されたスピン分裂や磁気秩序を確認できなかった。別の物質では支持する証拠が蓄積し、2026年10月には原子スケールでスピンに敏感な電子信号を識別する新たな実験が発表された。どの物質の何を測ったかによって、導ける結論は異なる。12

磁化が小さくても磁気秩序は残る

普通の棒磁石では、多くの原子の磁気的な向きが似た方向にそろっている。原子や電子の磁気的性質の向きと大きさを磁気モーメントといい、それらの全体としての整列を表す量が磁化である。

これに対し、隣り合う原子のモーメントが規則的に逆向きになることもある。反強磁性はその代表例だ。モーメントが相殺され、正味の磁化がほぼゼロになっても、結晶内部の秩序は残る。

では、アルターマグネティズムは従来の反強磁性とどこが違うのか。

違いは電子のエネルギー状態に現れる。電子は磁気的性質に関わるスピンという量子的な性質を持つ。逆向きの二つのスピン状態を区別できるが、電子が小さな球のように自転しているという意味ではない。反対スピンに対応する状態のエネルギーは等しい場合も、異なる場合もある。

ここで扱う材料は、原子が一定の規則で繰り返し配列した結晶である。結晶中の電子のエネルギーは、その運動方向に依存する場合がある。アルターマグネティズムでは、一方向に見られる反対スピン間のエネルギー差が、別の方向では符号を反転することが予測される。1

同じ運動量で反対スピンに対応する電子状態のエネルギーが異なる現象をスピン分裂という。一つの電子が二つに割れることではない。原子配列を回転または平行移動しても同等の配列が保たれる性質を結晶対称性という。アルターマグネティズムでは、磁気モーメントの配列と方向依存のスピン分裂が、この対称性によって結びつく。

したがって、原子の磁気配列、方向別の電子エネルギー、スピンの関係を補完的な手法で確かめる必要がある。

三つの模型を横に比較。左は上向きにそろった磁気モーメント、中央は反対向き、右は反対向きのモーメントに直交する楕円状の局所環境を加えたもの。
左から強磁性、従来型の反強磁性、アルターマグネティズムの概念比較。楕円は磁気副格子を結ぶ回転対称性の模式表現であり、実測された電子軌道の形ではない。

RuO₂で食い違う実験結果

2022年、RuO₂薄膜に電流を流すと、電流に直交する方向にも電圧が生じた。研究チームはこれをアルターマグネティズムに関わる異常ホール効果として解釈した。特定の磁気秩序がこうした応答を生む可能性があるため、重要な手掛かりとなった。2

ただし、横方向の電圧を測ったことと磁気モーメントの配列を直接確かめたことは異なる。電子構造や測定条件も信号に影響しうる。そこで後続研究は電子のエネルギーとスピン、内部の磁気秩序を別々に調べた。

2024年、Jiayu Liuらは光を照射して放出される電子のエネルギーと運動方向を調べる光電子分光を行った。スピンを識別する測定でも、調べた薄膜と単結晶の双方で予測されたスピン分裂は見つからず、非磁性を仮定した計算の方が観測された電子構造によく一致した。3

同年、Philipp Keßlerらは内部の磁気秩序を調査した。薄膜には微小な局所磁場に敏感な測定を、単結晶には中性子回折を用いた。試料と検出対象は異なるが、調べた範囲ではいずれも予想した長距離秩序を確認できなかった。以前に秩序の証拠とされた中性子信号の一部は、多重散乱と解釈し直された。4

2026年、Tiema QianらはRuO₂単結晶に強い磁場を加え、磁化と磁気トルクを測定した。ここでも、隣接原子を越えて広い領域に続く長距離磁気秩序は検出されなかった。5

この結果はアルターマグネティズムそのものの否定ではない。非検出という結論は、調べた試料と測定感度の範囲に限られる。

RuO₂を異なる結晶の上に薄膜成長させると、原子間隔の不一致が格子を伸縮させる場合がある。こうした歪みは電子のエネルギーを変えうる。2026年、Seungjun Leeらは特定の歪み条件下でアルターマグネティズム型のスピン分裂が可能だと計算した。ただし、実際の薄膜に磁気秩序を観測したわけではない。6

RuO₂に残る問題は、どの試料・歪み条件でどのような磁気秩序が生じるかである。

MnTeとCrSbで積み重なった証拠

RuO₂への疑問が増す一方、別の材料では複数の測定法がアルターマグネティズムの解釈を補強した。

2024年、J. KrempaskýらはMnTeの電子エネルギーの分裂を光電子分光で観測し、理論と比較した。7

同年、O. J. AminとA. Dal DinらはMnTeで磁気秩序の向きが異なる領域を可視化した。これは磁区と呼ばれる。2026年にはZheyuan Liuらが偏極中性子回折でバルクMnTeの内部秩序を調べ、冷却時に加えた弱い磁場の向きによって秩序方向が変わる現象も確認した。8

これらは電子エネルギー、磁区、結晶内部の秩序という異なる対象を調べている。単一の測定を繰り返したのではないが、結果は相補的にMnTeの解釈を支持する。

CrSbでも検証が進んだ。2024年、Sonka Reimersらは結晶方向によって電子エネルギーが分かれることを観測したが、スピンそのものを直接区別してはいなかった。9 2025年、Guowei Yangらはスピン分解光電子分光でその点を調べた。10

2026年には、超伝導NbをCrSbに接触させ、接触部の電流・電圧の関係から方向別のスピン偏極をモデルに依存して推定する研究があった。個々のスピンを直接撮影した値ではない。別の研究は、強磁場下で周期的に変化する微小な信号である量子振動を分析し、結晶内部の電子状態を調べた。11

観測量の異なる研究結果を区別しつつ突き合わせることで、同じ解釈をより幅広く吟味できる。

新しい探針で表面のスピン感受性信号を識別する

電子のエネルギーとスピンの測定を、結晶表面の原子位置と直接対応させることは難しかった。

2026年10月13日付のNature論文で、Zhuying Wangらは顕微鏡の探針を工夫してこの課題に取り組んだ。14

**走査トンネル顕微鏡(STM)**は、極細の探針を試料表面のすぐ近くに置き、隙間を通る微小なトンネル電流を測る。探針を走査すると、原子スケールの表面電子状態を調べられる。ただし普通の探針では逆向きスピン由来の信号が重なりやすい。

研究者たちは、結晶の縁を進む電子の方向とスピンが結びつく特殊な結晶材料で探針を作製した。この性質によって、トンネル電流のスピン選択性を高められる。材料、加工、校正の詳細は脚注に記す。14

まず磁気配列が知られた別の物質で通常の金属探針と比較し、スピン感度を検証した。対象となった層状金属KV₂Se₂Oでは、2025年にすでに室温でアルターマグネティズムを支持する証拠が報告されていた。今回の意義は新物質の発見ではなく、原子位置とスピンに敏感な表面信号を結びつけた点にある。14

表面の異なるV原子サイトと微細な格子変調を識別し、欠陥周辺の電子の干渉模様を調べた。電子には波としての性質があり、欠陥で散乱した波の重なりによって干渉模様が現れる。模様の向きは電子状態を探る手掛かりになる。

磁場の向きを反転すると、直交する二つの結晶方向で励起エネルギーが逆向きに変化した。探針のバイアス電圧の符号を変えると、スピンに敏感な干渉の異方性が90度回転した。通常探針を使った対照測定も行われた。14

これらはKV₂Se₂Oの表面層で、結晶方向によってスピン関連の電子状態が異なるという解釈を支える。各原子のスピンを直接写真に撮ったわけではない。

結晶内部の層間磁気配列は別途確認が必要である。STM測定は主に4.8 K(約マイナス268℃)で行われ、室温メモリーの実証ではない。14

金属支持部の先についた細い層状の探針が、結晶の原子表面へ微小な間隔を保って近づく三次元図。
α-Bi₄Br₄単結晶の端状態を利用したスピン選択的STM探針の概念図。研究ではKV₂Se₂O表面のスピン感受性トンネル信号を測定した。探針の形状と距離は実寸ではない。

X線で二種類の鉄原子サイトを見分ける

翌10月14日、Nature CommunicationsはGanesha Channagowdraらによる絶縁性磁性体Fe₂Mo₃O₈の研究を掲載した。この物質の鉄は局所環境が異なる二種類のサイトを占める。15

片方は酸素原子4個、もう片方は6個に囲まれている。鉄という元素が同じでも、周囲の幾何学は電子エネルギーとX線への応答を変える。

研究者たちは結晶にX線を当て、散乱後のX線のエネルギーを測定した。入射と散乱のエネルギー差は、内部で起きた電子の励起を反映する。理論計算と照合することで、二種類の鉄サイトに対応する信号を区別する。これは**共鳴非弾性X線散乱(RIXS)**である。15

X線の円偏光の向きも切り替えた。円偏光とは電場の向きが波の進行に伴って回転する状態で、右回りと左回りに対する応答差を円二色性という。この差は結晶の対称性を調べる手掛かりになる。15

二種類の鉄サイトで円偏光に依存する違いが現れた。しかし、円二色性だけで磁気秩序が原因だと断定できない。他の要因でも生じうるからだ。

研究者たちは温度と散乱方向を変えて比較した。磁気転移を超える温度では円二色性が測定誤差の範囲内で消えた。また、磁気秩序が残っていても関連する鏡映対称性が維持される測定配置では差が現れなかった。こうした対照実験が解釈の鍵となった。15

研究チームは結果をバイ・アルターマグネティズム(bi-altermagnetism)のモデルと比較した。結晶で同等の位置が繰り返す集まりを副格子という。このモデルでは、二種類の鉄サイトがそれぞれアルターマグネティズム型の磁気秩序をなす。「バイ」とは単に鉄サイトが二種類あるという意味ではなく、二つのアルターマグネティックな副格子が共存するという解釈である。15

X線測定と理論はこの解釈を支持するが、個々の鉄原子のスピンを直接測定したものではない。RuO₂の論争やメモリー性能を解決する結果でもない。

磁気秩序を電気的に読み、書き換える

材料によってアルターマグネティズムへの支持と疑問が併存する。実用メモリーへの応用には、確かめられた磁気秩序を切り替え、その状態を読み分ける必要がある。

情報記憶には安定した二つの状態が必要だ。アルターマグネティズムでは正味の磁化がほぼ相殺されるため、通常の磁石のような磁化測定だけでは状態を識別しにくい。

2025年、Zhiyuan ZhouらはCrSbに金属層を組み合わせ、電流による磁気秩序の方向変化を報告した。白金(Pt)を用いた構造では補助磁場が必要だったが、タングステン(W)を用いた別の構造では試験中に補助磁場なしで切り替わった。すべてのCrSbデバイスで磁場不要という意味ではない。12

2026年8月、Zhaohui LiらはCrSbとPtTe₂を重ねた薄膜構造を報告した。界面で生じる電気信号から磁気秩序を間接的に読み取り、電流によってその方向を変える実験も行った。原子の配列変化を直接撮影したのではなく、秩序に応じた電気的応答を測った。13

代表的な書き込み試験の条件は170 K(約マイナス103℃)、外部補助磁場**±30 mT**だった。これを室温で動作する実用メモリーの実証として扱うことはできない。パルスと読み出しの詳細は脚注に記す。13

二つの細長い積層デバイス。左には橙色の電流パルス、右には青い電流と紫色の読み出し信号線が描かれている。
PtTe₂/CrSb積層構造における電気的制御とホール信号による間接読み出しの模式図。代表的な書き込み試験は170 K、外部補助磁場±30 mTで行われた。実測した原子配置や室温メモリー実証ではない。

実用メモリーまでの課題

電流で磁気秩序の方向を切り替えられても、実用メモリーが完成したわけではない。電源を切った後の情報保持時間、書き換え速度、消費電力、多数の素子を作ったときのばらつきを評価する必要がある。

繰り返し電流パルス試験だけでは製品寿命や長期データ保持を保証できない。室温で外部補助磁場なしに安定して読み書きできるかも独立した課題である。13

実験で確認された磁気秩序の変化を、実際の使用環境で確実に記録し区別できるかが次の焦点になる。

脚注

1. 理論的整理。Šmejkal、Sinova、Jungwirthは結晶の回転対称性によって従来の強磁性・反強磁性と区別される磁気秩序を分類した。反対スピンの副格子が回転で結び付くと、電子の運動量に応じたエネルギー分裂が可能になる。以下の二論文は理論・展望であり、独立した実験確認として数えない。

原文文献:Beyond Conventional Ferromagnetism and Antiferromagnetism: A Phase with Nonrelativistic Spin and Crystal Rotation Symmetry; Emerging Research Landscape of Altermagnetism。

2. RuO₂が初期の代表候補になった経緯。Feng、Zhou、Šmejkalの3人が共同筆頭著者で、FengとZhouは薄膜成長・電気輸送・磁気測定を担い、Šmejkalらは理論計算を担当した。Zhiqi Liuが研究を発案・指導した。薄膜の異常ホール効果をアルターマグネティズムの兆候とする解釈は、その後に期待された秩序を検出できなかった研究結果と照らし合わせる必要がある。別のFedchenkoらは光電子分光による時間反転対称性の破れという解釈を示した。Feng論文には2022年11月、図の記号と数式表記に関する出版社の訂正が出ている。最初の電気信号だけで磁気秩序を直接撮影したと解釈しない。

原文文献:An anomalous Hall effect in altermagnetic ruthenium dioxide; Observation of time-reversal symmetry breaking in the band structure of altermagnetic RuO2。

3. RuO₂のスピン分光。Jiayu Liu、Jie Zhan、Tongrui Li、Jishan Liuが共同筆頭著者。薄膜・単結晶のARPESとスピン分解ARPESでは期待した分裂が見られず、非磁性計算の方が合致した。調べていない試料や歪み条件までは排除できない。

原文文献:Absence of Altermagnetic Spin Splitting Character in Rutile Oxide RuO2。

4. 磁気秩序の検査。Philipp KeßlerとLaura Garcia-Gassullが共同筆頭著者。KeßlerとMoserは薄膜、Keßler・Moser・SalmanらはμSR、Khalyavin・Manuel・Orlandiは単結晶中性子回折、Garcia-GassullとMazinは理論を担当。μSR上限はバルクで1.14×10⁻⁴ μB/Ru、TiO₂(110)上の11 nm薄膜で7.5×10⁻⁴ μB/Ru。(100)中性子信号は単結晶の多重散乱と再解釈。薄膜に中性子回折を適用したわけではない。非検出は試料・感度に依存する。

原文文献:Absence of magnetic order in RuO2: insights from μSR spectroscopy and neutron diffraction。

5. 高磁場のRuO₂。Tiema Qianらは単結晶を最大31 Tで測定し、長距離秩序を検出せず、調べた結晶を常磁性金属と解釈した。異なる歪み状態の薄膜まで一括否定しない。

原文文献:Determining the nature of magnetism in altermagnetic candidate RuO2。

6. 歪み効果の計算。Seungjun Leeは第一著者でTony Lowと共同責任著者。Jeong、Wang、Jalanらと結晶方向・歪み・Hubbard Uを第一原理計算。TiO₂上の(001)/(101)は追加効果なしなら非磁性、歪んだ(100)/(110)ではアルターマグネティズム型分裂・輸送応答の可能性を計算した。個々の計算担当の詳細なCRediTは未確認。実際の薄膜で観測した磁気秩序ではない。

原文文献:Strain-Driven Altermagnetic Spin-Splitting Effect in RuO2。

7. MnTeの電子状態。Krempaský、Šmejkal、D’Souzaが共同筆頭著者。ARPES観測・解析に理論計算と分光シミュレーション、試料作製・温度依存測定を組み合わせた。電子構造はアルターマグネティズム型のスピン分裂という解釈と整合する。

原文文献:Altermagnetic lifting of Kramers spin degeneracy。

8. MnTeの磁区・内部秩序。AminとDal Dinが共同筆頭著者で、WadleyらとXPEEMにより形状・冷却条件に依存する磁区を観測・制御した。別研究のLiu、Asai、Masudaらはバルクの偏極中性子回折で秩序と弱強磁性成分を観測し、mT程度の反対向き磁場で冷却して秩序を切り替えた。どちらも電流でメモリー書き込みを行ったわけではない。

原文文献:Nanoscale imaging and control of altermagnetism in MnTe; Observation of Altermagnetic Order Switching in Bulk MnTe by Polarized Neutron Diffraction。

9. 初期のCrSb電子構造。Reimers、Odenbreit、JourdanらはCrSb(100)エピタキシャル薄膜を作製し、12 Kでスピン非分解SX-ARPESを実施。約0.6 eVのバンド分裂を計算と照合した。スピン分解の直接測定と混同しない。

原文文献:Direct observation of altermagnetic band splitting in CrSb thin films。

10. CrSbのスピン測定。YangとLiが共同筆頭著者。YangがARPES、Liが第一原理・模型解析、Yang Liuが企画。反対スピンに対応する電子状態と分裂が消える位置をスピン分解法で調べ、g波対称性の計算と比較した。

原文文献:Three-dimensional mapping of the altermagnetic spin splitting in CrSb。

11. CrSbを異なる物理量で調べた相補的研究。Yan Zhangらは超伝導Nb探針をCrSbの三つの結晶面に接触させ、Andreev反射の電圧依存信号を解析した。方向別のスピン偏極率約73.4%、67.9%、61.9%は接触界面の応答から模型を用いて推定した値であり、スピン分布の直接観測値ではない。別の論文ではMengmeng Long、Theodore I. Weinberger、Zheyu Wuが共同筆頭著者で、Longは結晶成長・評価と量子振動、WeinbergerとWuは量子振動、WeinbergerはDFTにも従事した。Alexander G. Eatonが研究を構想し、EatonとF. Malte Groscheが指導した。低温・強磁場の量子振動と理論模型を比較してCrSbバルクのg波秩序の解釈を補強したが、Nb接触測定とは異なる物理量であり、同一手法による追試として数えてはならない。

原文文献:Andreev Reflection to Probe Momentum-Dependent Spin Polarization in Altermagnet CrSb; 3D bulk-resolved g-wave altermagnetic order parameter in CrSb。

12. CrSbの電流による磁気秩序制御。最終掲載された『Nature』論文の著者貢献欄では、Zhiyuan Zhouが共同設計・試料作製・輸送測定・解析・シミュレーション、Xingkai ChengとMengli Huが対称性・第一原理計算、Ruiyue Chuがデバイス製作を担当し、Feng PanとCheng Songが構想・指導した。責任著者はPanとSongである。最終版の図4に示されたCrSb(1-100)/Ptは補助磁場を必要とする方式、W/CrSb(11-20)は試験中に外部補助磁場なしで切り替える別方式である。室温で観測された異常ホール効果と、電流による秩序の書き換え時の温度を同一視しない。最終掲載版から装置別の書き込み温度を確実に確認できていないため、本文ではその数値を提示しない。著者構成も異なる初期のarXiv:2403.07396にある図4やMethodsの数値を、最終掲載論文の確定条件に移してはならない。

原文文献:Manipulation of the altermagnetic order in CrSb via crystal symmetry。

13. PtTe₂/CrSbにおける電気的な読み出しと書き込み。2026年8月24日公開の『Nature Materials』出版社版は、Zhaohui Li、Wenqing He、Hua Bai、Yang Wangの4人を共同筆頭著者、Lei ShenとHyunsoo Yangを責任著者として記載する。著者貢献欄によれば、Liは試料成長・電気輸送・スイッチング測定、Heはマクロスピン計算と解析、Baiは解析、Yang WangとXiwen Zhangは第一原理計算を担当した。磁化測定を担当したYongxi Wangは別の共著者である。Grutter、Kinane、Caruanaは偏極中性子反射率を担当し、Shenは計算を指導、Hyunsoo Yangは研究を構想・総括した。

読み出しはPtTe₂の近接効果に由来する異常ホール信号を使い、原子スピンを直接観察したものではない。出版社版の要旨と図1〜4はホール信号による検出とスピン軌道トルクによる秩序制御を示す。数値を伴う書き込み手順は公開された著者予稿arXiv:2607.07299のMethods・図4に基づく。代表的なPtTe₂(5 nm)/CrSb(8 nm)試料では、170 K、面内補助磁場±30 mT、10 msの書き込みパルスを用い、電流停止後500 ms待ってから100 μAでホール抵抗を測定した。図4hは同条件で6,000パルスを反復した試験である。これらの予稿数値は出版社の補足資料を全面照合した確定値として扱わない。反復パルスは製品寿命や長期情報保持、室温・無補助磁場動作を証明しない。別に実施された300 K・5 Tのスピンホール磁気抵抗測定を書き込み試験と混同しない。

原文文献:Electrical manipulation and detection of perpendicular altermagnetic order via a proximitized Dirac semimetal。

14. KV₂Se₂Oの先行研究と原子スケールのスピン感受性測定。Bei Jiangらは2025年に金属的な室温d波アルターマグネティズム、スピン偏極電子構造とスピン密度波に関する結果を発表した。2026年論文の新規性は物質そのものを初めて発見したことではなく、同じ表面で原子位置とスピンに敏感な信号を対応付けて測定した点にある。

Zhuying Wang、Shuikang Yu、Xingkai Cheng、Xiaoyu Xiaoが2026年『Nature』論文の共同筆頭著者である。研究チームは高次トポロジカル絶縁体α-Bi₄Br₄のらせん状エッジ電子状態を利用し、単結晶を集束イオンビームで加工してPtIr支持探針の先端に接合したスピン選択的STM探針を製作した。Au(111)で校正した後、既知の磁気秩序を持つFe₁.₀₂Teで通常のPtIr探針との比較を行い、スピン感受性を調べた。その後、KV₂Se₂Oの表面層について、原子位置・欠陥と密度波による格子変調、磁場依存分光、電圧の符号を変えたとき90度入れ替わるスピン感受性準粒子干渉の方向依存性を総合した。本文の解釈は表面の2次元d波アルターマグネティズムを支持するが、バルクの層間磁気秩序を確定するものではない。

公開著者原稿arXiv:2512.23290のMethodsによると、20本以上の探針を製作したが、表面の不均一性と探針状態によりKV₂Se₂Oで明瞭なスピン分解信号を得られた事例は限られた。STM測定の大半は4.8 Kで行われた。早期公開版は編集・組版前の状態であり、出版社のSupplementary Information全図および査読資料を独立に全面照合したわけではない。

原文文献:A metallic room-temperature d-wave altermagnet; Atomic-scale spin sensing of a 2D d-wave altermagnet via helical tunneling。

15. Fe₂Mo₃O₈の副格子別RIXS円二色性。Ganesha Channagowdraらは、Fe²⁺が四面体型と準八面体型という異なる環境を占める単結晶にFe L₃吸収端付近のX線を照射した。共鳴非弾性X線散乱(RIXS)では、四面体型サイトに対応する約0.5 eVと準八面体型サイトに対応する約1 eVの結晶場励起を、理論計算と照合して帰属した。より低エネルギーのスピン・軌道励起は主として準八面体型サイトに帰属される。なお約1 eVの特徴自体が強い円二色性を示したわけではなく、主要な二色性は低エネルギー励起と約0.5 eVの特徴に現れる。

研究チームは入射X線の右・左円偏光を切り替えてRIXS強度差を調べた。磁気秩序がある約32 Kで現れた円二色性は転移温度約60 Kを超えると実験誤差の範囲内で消失した。また、磁気秩序が残る温度でも鏡映対称性を保つ別の散乱面では差が現れない。これらの温度・散乱幾何の対照が磁気秩序との結び付きを裏付ける。両鉄サイトの励起を、交互に符号が変わるWeiss場を用いた原子模型と比較し、bi-altermagnetismの解釈を支持した。ただしこれは個々の鉄原子のスピンを実空間で撮影した結果ではない。円二色性には非磁気的要因もあり、計算模型は鉄サイト間の直接電子ホッピングを含まない。公開著者原稿arXiv:2512.00737v2の本文・図・Methodsを参照したが、出版社版の補足資料および査読資料全体の照合は別途必要である。

原文文献:Signatures of bi-altermagnetism revealed by sublattice-specific circular dichroism in resonant inelastic X-ray scattering。