ニュートリノは自分自身の反粒子なのか
物質には反物質がある。電子の反粒子は陽電子で、質量は等しいが電荷は逆だ。陽子には反陽子がある。ただし反粒子の違いが必ず逆の電荷に現れるとは限らない。電荷を持たない中性子にも別の粒子である反中性子が存在する。
同じく電荷を持たないニュートリノはどうだろう。ニュートリノと反ニュートリノが中性子と反中性子のように異なるならディラック(Dirac)ニュートリノ。ニュートリノが自分自身の反粒子ならマヨラナ(Majorana)ニュートリノとなる。どちらなのかはまだ分かっていない。
一つの手がかりは二重ベータ崩壊にある。特定の原子核では中性子2個が陽子2個に変わる際、電子2個と電子反ニュートリノ2個が出る。しかし電子2個だけが現れ、ニュートリノが一つも出ないとしたら、それは研究者が探すニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊(0νββ)である。
反ニュートリノが原子核から出た後で衝突して対消滅するという意味ではない。最もよく調べられる説明では、核内の二つの弱い相互作用を仮想的なマヨラナニュートリノの交換が結びつける。マヨラナ質量成分があれば、最終状態にニュートリノを残さず電子2個が出ることがあり得る。1
0νββが見つかればニュートリノにマヨラナ質量成分があると分かる。しかしこれまで確実な観測例はない。もし起こるとしても極めてまれな崩壊なのだ。

半減期10²⁶年の崩壊をどう探すか
探索に使われる原子核の一つがキセノン136(¹³⁶Xe)である。0νββの信号はまだ見つかっておらず、現在の制約によれば、その半減期は10²⁶年を大幅に超えなければならない。2
宇宙の年齢をはるかに超える時間だが、一つの核をそれほど長く待つのではない。数百キログラムの¹³⁶Xeには約10²⁷個の原子核がある。その全部を同時に観測すれば、一つ一つの崩壊確率がごく小さくても、珍しい事象を捉える可能性が生まれる。
原子核を大量に集めるだけでは足りない。0νββではニュートリノが外へエネルギーを運ばないため、電子2個のエネルギーの和が一定値の周辺に集中する。実験が探すのはこの狭いエネルギー領域の信号だ。だが自然放射能や宇宙線も似た信号を作り得る。装置を地下深くに置き、放射性不純物の少ない材料を選び、エネルギーを精密に測って背景事象を除かなくてはならない。
たくさん集め、正確に測り、偽の信号を排除する必要がある。
一つの装置ですべてを最高水準にするのは難しい。大量の同位体を収容する技術が必ずしも最高のエネルギー分解能を持つわけではなく、電子の軌跡を詳細に調べる装置は大型化しにくいこともある。同じ崩壊を探す研究者が違う検出器を作る理由だ。

同じキセノンを使う三つの検出器
¹³⁶Xeだけでも設計の違いは明瞭だ。KamLAND-Zenは¹³⁶Xeを液体シンチレータに溶かす。粒子がエネルギーを与えると光る液体で、大きな容器に多量のキセノンを含ませられる。直近の分析では濃縮キセノン745kgを使用したが、0νββの信号は見つからなかった。2
NEXTは同じキセノンを高圧の気体として使う。気体は液体より密度が低く、同量にはより広い容積が要るが、電子が通った軌跡を調べられる。0νββなら同じ地点から電子2個が生じるため、NEXTはエネルギーだけでなく軌跡の特徴も使って背景事象を識別する。2026年に報告されたNEXT-100の実際の校正結果を崩壊エネルギーまで外挿すると、1%未満のエネルギー分解能が見込まれる。3
nEXOが構想するのは別の方式だ。¹³⁶Xeを高濃度に含む液体キセノンを数トン規模まで増やし、発光と電離電荷からエネルギーや事象位置を求める。3 同じ原子核でも、KamLAND-Zenは液体シンチレータの光、NEXTは気体中の電子の軌跡、nEXOは大容量液体キセノンでの光と電荷を重視する。
どれほど多量に集め、どれほど精密に測り、事象からどれほど多くの情報を得るか。装置の選択はそれによって変わる。しかし違いは同じキセノンの中だけにとどまらない。

原子核が変われば測り方も変わる
LEGENDはゲルマニウム76(⁷⁶Ge)を使う。ゲルマニウム結晶自体が崩壊する標的であり、エネルギーを直接測る半導体検出器でもある。そのため高いエネルギー分解能を得られる。LEGEND-200はデータ取得を続け、2026年の最初の結果でも信号は見つからなかった。4
CUOREはテルル130(¹³⁰Te)を含む結晶を極低温まで冷却し、事象の残す微小な熱を測る。一方CUPIDとAMoREはモリブデン100(¹⁰⁰Mo)を含む低温結晶から熱と光を読み取る方法を進めている。韓国のイェミラボで準備が進むAMoRE-IIもその一つだ。5
どの核種もすべての条件で優れているわけではない。同位体をどれだけ確保できるか、どんな材料にできるか、どの検出技術を組み合わせられるかが異なる。エネルギー精度が強みの方式も、背景を識別する情報を多く得られる方式もある。そして複数の核種を使う理由は、工学だけでは説明しきれない。
半減期の下限が長ければ最良とは限らない
KamLAND-Zenが¹³⁶Xeに与えた0νββ半減期の下限は3.8×10²⁶年。LEGEND-200と先行するGERDA・MAJORANA DEMONSTRATORの結果を合わせた⁷⁶Geの下限は1.9×10²⁶年だ。24 数字だけならキセノンのほうが2倍先行したように見えるが、この比較は正しくない。
原子核ごとに崩壊に使えるエネルギーが異なり、核内の陽子・中性子の量子的な配置も異なる。同じニュートリノの性質が原因でも、核種によって崩壊確率は変わる。この複雑な核構造の効果を理論的に計算したものが核行列要素(nuclear matrix element)である。6
核行列要素は実験で直接測る値ではなく、計算手法によって予測に幅がある。軽いマヨラナニュートリノの交換を仮定し、半減期の下限を質量の制約に変換すると、単一の確定値ではなく計算に依存した範囲が得られる。同じKamLAND-Zenの結果でも、採用する核計算が違えば質量の上限は変わる。2
したがって核種の異なる実験の半減期下限を並べて単純な順位表にすることはできない。ここに、異なる原子核を使うもう一つの意味がある。
まだ発見に至っていない現在は、装置ごとに異なる背景事象と核種の違いを利用することで、互いの弱点を補える。大量のキセノンを用いる検出器と、ゲルマニウム結晶でエネルギーを精密に測る検出器では、誤信号の原因も、結果を質量に読み替える核理論の不確実性も違う。複数の非検出結果を一緒に検討すれば、一つの装置や核種だけに依存しない制約を与えられる。6
将来、例えば¹³⁶Xeで0νββらしい信号が見つかれば、⁷⁶Geや¹³⁰Teでも、十分な感度の実験が予想される範囲の信号を探せる。独立した装置と核種で同じ結論に達することは、一つの検出器固有の背景や予期せぬ雑音を疑う余地を小さくする。ただし別の実験で見えなかったからといって、感度が足りない場合まで最初の発見を直ちに否定できるわけではない。
さらに、0νββを起こすと考えられる物理機構は一種類だけではない。機構によって、異なる核種で予想される半減期の比も変わり得る。複数の核種で実際に信号が測定できれば、現象の確認に加え、何が崩壊を起こすかを絞る手掛かりとなる。ただし判別には核行列要素の不確実性と物理模型への依存があり、複数の測定だけで機構が自動的に一意に決まるわけではない。6
異なる実験は同じ仕事の繰り返しではない。発見前は違う弱点を補い合い、発見後は相互に検証する。
JUNOも将来この探索に参加するかもしれない
現在JUNOが主として測っているのは0νββではなく、原子炉から来る電子反ニュートリノの振動である。ニュートリノの質量順序を調べるのが大きな目的の一つだ。
一方、JUNOの巨大な検出器を将来ほかの研究に活用する可能性も検討されてきた。一案では、中央部に別の容器を設け、¹³⁶Xeを溶かした液体シンチレータを入れる。そうなれば原子炉から来る反ニュートリノではなく、容器の中で起こる極めて珍しい核崩壊を探すことになる。7
現在JUNOにある約2万トンの液体シンチレータが、そのまま2万トンの二重ベータ崩壊標的になるわけではない。使用する同位体の量、装置の改造内容、実施時期はいずれも確定していない。KamLAND-ZenやLEGENDは既にデータを蓄積し、NEXTは別方式でキセノンを調べ、nEXOなどの次世代実験も準備されている。
JUNOが将来この探索に加われば、質量順序のために建設された巨大装置が、世界の研究者がさまざまな原子核で追ってきた別の問いに向き合うことになる。今の問いは、三つの質量状態がどう並ぶのか。その先にはもっと根本的な問いがある。
ニュートリノと反ニュートリノは本当に別の粒子なのだろうか。
注
1. 0νββでニュートリノはどこへ行くのか。 核外で反ニュートリノが衝突して対消滅することではない。代表的な軽いマヨラナニュートリノ交換では、核内の二つの弱い相互作用を仮想ニュートリノがつなぐ。ほかの機構もある。Schechter–Valleのブラックボックス定理によれば0νββの発見はマヨラナ質量成分の存在を示すが、軽いニュートリノ交換が主因とは限らない。J. Schechter & J. W. F. Valle, Physical Review D 25, 2951 (1982), 原論文 · M. Agostini et al., Reviews of Modern Physics 95, 025002 (2023), 総説。
2. KamLAND-Zen。 KamLAND-Zen 800の全解析では濃縮キセノン745kg、¹³⁶Xeに換算した曝露量2.1トン・年を用いた。以前のデータと合わせても信号はなく、90%信頼水準で半減期の下限3.8×10²⁶年を得た。軽いマヨラナニュートリノ交換、gA≈1.27を仮定した有効マヨラナ質量の上限は核行列要素により28–122meV。個々の質量固有状態の直接測定ではない。S. Abe et al., Physical Review Letters 135, 262501 (2025), 出版論文 · 公開原稿。
3. NEXTとnEXO。 NEXT-100の²⁰⁸Tl 2615keVでの光電ピークの分解能は(0.90±0.02)% FWHM。¹³⁶XeのQββ=2458keVまでエネルギー依存性を外挿した予測値が(0.93±0.02)% FWHMであり、0νββそのものを測定したわけではない。nEXOは約5,000kgの液体キセノン全体を使い、約90%を¹³⁶Xeに濃縮する計画である。純粋な¹³⁶Xeが5トンという意味ではない。NEXT Collaboration, European Physical Journal C 86, 1057 (2026), 論文 · nEXO Collaboration, 設計報告 · 公式概要。
4. LEGEND-200。 濃縮⁷⁶Geの高純度半導体検出器を低背景の液体アルゴン中で動作させる。最初のデータは61.0kg・年。GERDA・MAJORANA DEMONSTRATORとの結合結果で90%信頼水準の半減期下限1.9×10²⁶年を得た。LEGEND-200単独の値として扱わない。H. Acharya et al., Physical Review Letters 136, 022701 (2026), 公開版。
5. テルルとモリブデンの実験。 CUOREは¹³⁰Teを含むTeO₂を極低温熱量計として用いる。CUPIDはCUOREの低温装置を引き継ぐ計画で、2025年の設計では¹⁰⁰Moを濃縮したLi₂MoO₄の発光結晶1,596個を用い、光と熱を測る。AMoRE-IIもイェミラボでモリブデンを含む結晶から光と熱を読む計画である。計画と実施済み観測を混同しない。CUORE Collaboration, Science 390, 1029–1032 (2025), 論文 · CUPID Collaboration, EPJC 85, 737 (2025), 設計論文 · AMoRE Collaboration, 背景・感度研究。
6. 複数同位体の相補性と機構の判別。 軽いマヨラナニュートリノ交換が支配的なら、崩壊率には核種固有の位相空間因子、核行列要素の二乗、有効マヨラナ質量の二乗が入る。核計算の不確実性や相関があるため、異なる核種の半減期制限を単純な順位にはできない。発見前には独立した装置・背景・核種の比較が有効だが、非検出だけで他の装置の信号を即座に否定できない。発見後の複数核種での速度比較が機構の判別に寄与する程度も物理模型に依存する。T. Shickele et al., Physical Review D 114, 013007 (2026), 論文 · M. Agostini, F. F. Deppisch & G. Van Goffrier, JHEP 02, 172 (2023), 論文 · K. Ishidoshiro, Physical Review D 114, 035047 (2026), 論文。
7. JUNOの将来アップグレード案。 中央に別容器を置き、¹³⁶Xeを溶かした液体シンチレータで0νββを探す可能性を2017年の研究が検討した。例にある5トン・50トンは有効体積中の同位体の質量で、現在設置されたものではない。JUNOは2025年8月26日に約2万トンの液体シンチレータ検出器でデータ収集を開始したが、二重ベータ崩壊への改造は未確定の構想である。J. Zhao et al., Chinese Physics C 41, 053001 (2017), 原論文 · 公開原稿 · JUNO公式発表。
