CAUSIFOLD
한국어English日本語简体中文Español
文字サイズ

Biophysics

線維が伸びるか、液滴が固まるか

FUSの線維が伸びると、近くの液滴が縮む。ところが液滴が老化すると、線維は伸びにくくなる。二つの固まり方が競い合う理由を探る。

同じ青緑色のFUSタンパク質が長い線維と球状の凝縮体を作る概念図
同じFUSタンパク質が、線維と凝縮体という異なる状態を取る様子を表した概念図。矢印は個々の分子を追跡した実測経路ではない。

砂糖水を煮詰めて冷やすと、透明で硬い飴になることもあれば、砂糖の結晶が育つこともある。どちらになるかは、水分量や冷却速度、結晶が生じる条件によって変わる。いずれも砂糖が固まったものだが、内部構造はまったく異なる。ガラス状の飴では分子が不規則に並んだまま動きにくくなり、砂糖の結晶では規則正しく配列する。1

この二つの過程は競合する。結晶が育つ前に分子がガラス状の固体に閉じ込められると、結晶は成長しにくくなる。一方、結晶が成長し始めると、周囲の砂糖分子を取り込みながら大きくなる。

タンパク質でも、これに似た競合が起きることが分かった。顕微鏡で観察されたのは、さらに意外な光景だった。

細長いタンパク質の線維が伸びる一方、近くの丸い液滴は少しずつ縮んでいった。線維と液滴は同じタンパク質からできている。一方は長くなり、もう一方は縮んでいく。まるで線維が液滴に蓄えられた材料を利用しているかのようだった。

2026年10月20日付で『Nature Physics』に発表された研究は、この現象をタンパク質が固まる二つの経路の競合として説明した。オランダ・ライデン大学のLiru FengとLouise Jawerthが実験を計画・主導し、ドイツのマックス・プランク複雑系物理学研究所のRyota TakakiとFrank Jülicherらが理論モデルを開発した共同研究である。2

線維が伸びるにつれ、液滴が縮む

研究対象はFUSというタンパク質だ。細胞内でRNAの処理などに関わり、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の一部の症例とも関連がある。

FUSは条件によって一か所に集まり、液体のような小さな液滴を作る。内部のタンパク質濃度は周囲の溶液よりはるかに高いが、分子の動きが止まっているわけではない。分子は液滴の内外を行き来し、液滴同士が融合することもある。このようにタンパク質が濃縮された集まりを「凝縮体」と呼ぶ。

タンパク質が集まれば互いに接触する機会も増える。そのため凝縮体は、タンパク質が長く連なった線維を作りやすい場所だと考えられてきた。実際、2015年の研究ではFUSの液滴が時間とともに固体に近い凝集状態へ変わり、ALSに関連する一部の変異がその変化を早めることが観察された。3

ところが、タンパク質の濃度が最も高い場所で、線維が最もよく伸びるとは限らなかった。

研究チームはFUSの液滴を作り、あらかじめ形成された短い線維の断片を加えた。周囲のタンパク質分子が付着して線維を延ばせるよう、種となる構造を与えたのである。

線維は液滴の表面でも見られたが、主に液滴の外側にある希薄な溶液中で伸びた。液滴がない条件でも線維は成長した。

溶液が希薄でも、タンパク質がないわけではない。凝縮体の外側の溶液にも、動き回るFUS分子はある。その分子が線維に加わることで、線維は伸びていく。

線維の成長によって周囲の溶液中のタンパク質が消費されると、液滴と溶液の濃度の釣り合いも変わる。液滴は密閉された袋ではない。内部のタンパク質が外側の溶液へ移り、濃度の釣り合いが変わることもある。その結果、液滴の体積は減る。

研究チームは液滴と溶液の間の物質交換を組み込んだ物理モデルを作った。モデルでは、分子が液滴の境界を通過しやすいかどうかによって収縮の様子が変化する。このモデルは、線維の成長と液滴の縮小が同時に起こる理由を説明する。4

凝縮体が縮み、あらかじめ形成した短い線維の種が伸びる前後比較図
線維の種は主に希薄な溶液中で伸び、その間に近くのFUS凝縮体が縮小した。矢印で表した物質交換はモデルに基づく説明であり、個々の分子を直接追跡したものではない。図の大きさや長さも実測の比率ではない。

このモデルでは、液体状の凝縮体が、成長中の線維にタンパク質を供給する貯蔵庫のように働く。 二つの構造は同じ材料を共有し、互いに影響する。

では、液滴がさらに古くなったらどうだろう。長く存在した液滴の方が、線維をよく育てるのだろうか。

液滴が老化すると、線維は伸びにくくなる

研究チームは、液滴を作ってから線維の種を加えるまでの時間を変えた。形成から1時間後に加えた試料と、24時間後、48時間後に加えた試料を比べた。

ところが結果は逆だった。古い液滴を含む試料ほど、線維の伸びが小さかった。

線維の種を加える前に1、24、48時間老化させたFUS凝縮体の比較概念図
1・24・48時間は線維の成長時間ではなく、線維の種を加える前に凝縮体を老化させた時間を示す。古い凝縮体を含む試料ほど線維の伸びが小さかった。図の大きさや長さは実測値の比率を再現していない。

できたばかりの液滴を含む試料では線維がよく伸び、液滴は縮んだ。一方、古い液滴がある試料では線維の成長が弱く、液滴がより多く残った。

液滴の内部で何が変わったのだろうか。

研究チームは液滴の蛍光を光で一時的に弱め、その明るさが戻る速さを測った。古い液滴ほど回復は遅かった。また高濃度の塩を加えても、古い液滴は溶けにくかった。

これらの結果は、凝縮体が老化すると分子の動きや外部との交換が制限される方向に、物性が変わることを示している。研究チームは、液滴がガラスに似た性質を帯びていく老化現象と解釈した。タンパク質凝縮体の物性が老化によって変わる現象は以前から報告されていた。5

ここで「ガラス状」とは、窓ガラスのように透明になるという意味ではない。分子が不規則に配列したまま位置を変えにくくなる物質状態のことだ。

ここに、二つの経路が競い合う理由がある。

線維が伸びるには、タンパク質分子が移動して線維の先端に加わる必要がある。しかし液滴がガラス状に変化していくと、分子の移動や物質交換は難しくなる。研究チームは、この変化によって線維が伸びにくくなると解釈している。

線維が伸びるには、動き回れるタンパク質が必要だ。液滴のガラス状への老化は、その供給に関わる分子の動きを制限する。

液体状凝縮体での活発な交換とガラス状凝縮体での制限された交換を対比する図
線維は移動できるFUS分子を取り込みながら伸びる。研究チームは、凝縮体のガラス状への老化が分子の移動や交換を制限し、線維の成長を妨げると解釈している。図中の×印は成長が完全に止まるという意味ではない。

新しい液滴のある試料では線維の成長と液滴の収縮が目立った。古い液滴のある試料では液滴はより多く残ったが、線維の成長は弱かった。研究チームは、これを固まるまでの二つの経路が競合した結果と解釈した。

同じタンパク質でも、分子が規則的に結合して長い線維になることも、凝縮体にとどまったまま分子の動きが遅い状態へ変わることもある。今回の実験では、凝縮体が老化するほど線維は伸びにくくなった。

同じタンパク質、異なる結末

FUS凝縮体と線維形成の関係は、以前から研究されてきた。

2023年には、液滴が生じるには濃度が低すぎる溶液でもFUSの小さな線維が形成されうることが報告された。6 同年の別の研究では、凝縮体の表面から固体化が始まり、内部へ進む様子が観察された。7

2024年には、FUSの一部の領域を使って作った液滴を長期間観察した研究が報告された。表面に硬い殻ができ、より長く熟成した試料では線維も見つかった。RNAを加えると、こうした老化の一部が抑えられた。8

2025年にオンライン公開された研究は、FUS凝縮体内のナノスケール領域の配置変化と表面での線維形成を結び付けた。9

これらを合わせると、タンパク質が固まる道筋は一つではない。液滴の内部、表面、周囲の希薄な溶液はそれぞれ異なる環境である。用いたタンパク質の領域や周囲の分子、経過時間によっても、結果は変わりうる。

今回の研究は、その中でも線維の成長と凝縮体のガラス状への老化が競合する条件を示した。二つの物質状態は共存しうるが、片方が必ずもう片方へ直接変わる過程が示されたわけではない。

この競合が生きた神経細胞の中でも同じように起こるかは分かっていない。細胞内にはRNAや他のタンパク質、さまざまな調節機構がある。試験管内の結果をALS患者の神経細胞での仕組みの直接的な証拠とすることはできない。

タンパク質が固まる道筋は一つではない。同じ分子を材料に、線維を伸ばす道とガラス状に固まる道が競い合う。その先に生まれる物質の姿も、同じではない。

次の記事もお楽しみください

CAUSIFOLDの新しい記事やお知らせをSubstackでご覧いただけます。

Substackで購読する ↗

注・出典

1. 砂糖の結晶化とガラス形成。 菓子の構造は水分量、冷却、結晶核生成などの条件によって変わる。結晶化を抑えた硬い飴は、分子が長距離にわたって規則正しく並ばないガラス状の固体になりうる。これは物質状態を理解するための比喩であり、砂糖結晶とFUS線維の構造や生成過程が同じという意味ではない。Institute of Physics, “Sweet glasses”; J. Peter Clark, “Crystallization Is Key in Confectionery Processes”, Food Technology (2004).

2. 中心論文と研究者の貢献。 Liru Feng, Ryota Takaki, Iain Muntz, Lionel Ndamba, Martine Ruer-Gruß, Frank Jülicher, Louise Jawerth, “Fibres and glasses are competing material states in protein condensation,” Nature Physics, 2026年10月20日オンライン公開。DOI: 10.1038/s41567-026-03415-z。著者貢献表によると、FengとJawerthが実験を計画・指導し、Fengが実施した。NdambaとRuer-Grußは実験を支援し、Muntz、Feng、Takaki、Jawerthがデータ解析に参加した。理論モデルはTakaki、Jawerth、Jülicherが開発した。責任著者はJawerth。共同筆頭著者との明記は、確認した資料にはなかった。所属にはライデン大学とドイツのマックス・プランク研究所などが含まれる。

3. FUSの老化とALS関連変異。 Avinash Patel et al., “A Liquid-to-Solid Phase Transition of the ALS Protein FUS Accelerated by Disease Mutation,” Cell 162(5), 1066–1077 (2015)。FUS液滴が時間とともに凝集の進んだ状態へ変わり、一部の患者由来変異がその変化を早めると報告した。すべての液滴が直接アミロイド線維へ変わることを意味しない。DOI: 10.1016/j.cell.2015.07.047。

4. 線維成長・液滴収縮・物質交換モデル。 Feng et al. (2026), Fig. 1–3およびExtended Data 1–2。代表的な線維種添加実験の条件はFUS 4.5 μM、線維種0.7 μM、KCl 100 mM。凝縮体のないガラスビーズ実験はKCl 200 mMであり、同じ塩濃度での直接的な速度比較ではない。線維種を加えない対照群も12時間でわずかに収縮した。境界を介した物質交換という説明はモデルに基づき、個々の分子が液滴から線維まで移動する全経路を追跡したものではない。原論文。

5. ガラス状の老化と測定範囲。 Louise Jawerth et al., “Protein condensates as aging Maxwell fluids,” Science 370(6522), 1317–1323 (2020)。DOI: 10.1126/science.aaw4951。Feng et al. (2026)のFig. 4およびExtended Data 3–4では、FUS 15 μM、KCl 100 mMの条件で1・24・48時間の老化後に700 nMの線維種を加えた。液滴全体の蛍光回復は内部移動と外部溶液との交換の双方に影響されうる。1 M KClに対する溶解耐性は老化を支持するが、厳密なガラス転移点を独立に測定したものではない。種を入れない対照では7日・32日後に明確な線維は検出されなかった一方、32日目の内部染色シグナルはわずかに増えた。2026年の論文。

6. 液滴形成閾値未満の線維化。 Emilie Bertrand, Clément Demongin et al., “FUS fibrillation occurs through a nucleation-based process below the critical concentration required for liquid–liquid phase separation,” Scientific Reports 13, 7772 (2023)。BertrandとDemonginは共同筆頭著者。希薄相での線維形成は2026年の初発見ではない。DOI: 10.1038/s41598-023-34558-1。

7. 表面が促進する固体化。 Yi Shen et al., “The liquid-to-solid transition of FUS is promoted by the condensate surface,” PNAS 120(33), e2301366120 (2023)。表面から内部へ進む固体化を報告。希薄相で優勢な線維の伸長とは区別する。DOI: 10.1073/pnas.2301366120。

8. FUS断片の長期老化。 Leonidas Emmanouilidis, Ettore Bartalucci et al., “A solid beta-sheet structure is formed at the surface of FUS droplets during aging,” Nature Chemical Biology 20, 1044–1052 (2024)。EmmanouilidisとBartalucciは共同筆頭著者。アガロースゲル内のFUS残基1–267を用い、ベータシートに富む硬い表面の殻を確認し、長期間成熟させた試料では線維も観察した。RNAは老化を変化させる。2026年論文との違いを単一条件だけで説明することはできない。DOI: 10.1038/s41589-024-01573-w。

9. ナノスケール領域と表面の線維化。 Guoming Gao, Emily R. Sumrall, Nils G. Walter, “Nanoscale domains govern local diffusion and ageing within fused-in-sarcoma condensates,” Nature Nanotechnology 21, 249–258(2026年刊行の第21巻。オンライン先行公開は2025年11月14日)。GaoとSumrallは共同筆頭著者。タンパク質とRNAの局所拡散領域の変化を表面のFUS線維形成と関連付けた研究。DOI: 10.1038/s41565-025-02077-x。

任意・非公開です。個人情報を入力しないでください。 プライバシーポリシー

この記事から何を得られましたか?
事実・出典・翻訳の誤りを報告

セキュリティ確認後に送信してください。ボタン操作ごとに1回だけ送信します。

© 2026 CAUSIFOLD。独自制作物の権利を保護します。外部の研究・画像などの権利は各権利者に帰属します。著作権と利用規約