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超黒色 第2部:「最も黒い」は一つの数字で決められるのか

スターシェード、CNT超黒色、波長依存性、形状認知、光学バッフルを通して、「最も黒い材料」を単一の反射率だけで決められない理由を検証する。

CAUSIFOLD · 2026-10-05

宇宙望遠鏡と組み合わせて使うスターシェードを研究していたNASA支援の研究チームは、思いがけない問題に直面した。

太陽系外惑星を直接撮影するには、まずその惑星が回っている恒星の光を遮らなければならない。恒星は自ら光るが、惑星はその光の一部を反射するだけだ。恒星の光が少しでも入り込めば、惑星のかすかな光は埋もれてしまう。

そのために研究されている装置がスターシェード(starshade)だ。巨大な花のような遮光板を宇宙望遠鏡から遠く離れた位置に置き、遠方の恒星の光が望遠鏡に入る前に遮る。まだ実際の観測ミッションに投入された装置ではなく、将来の系外惑星観測に向けて開発・試験が進められている。

ところが、別の光が問題になる。私たちの太陽から来る光だ。

太陽光がスターシェードの花びらの縁に当たって散乱すると、その一部が望遠鏡まで届く可能性がある。NASAが支援した研究チームは、この縁を約300ナノメートルの厚さまで鋭くした。人の髪の毛の太さの数百分の一程度だ。

それでも散乱光は多すぎた。

ならば、縁を黒くすればよい。

問題は、従来の超黒色コーティングが黒くなる仕組みにあった。カーボンナノチューブや三次元微細構造を使うコーティングは、表面上に一定の高さをもつ構造を形成して光を閉じ込める。非常に黒いが、厚さが数マイクロメートルになることがある。300ナノメートルの刃先に塗れば、精密につくった先端が鈍り、そのため縁で生じる散乱光が再び増えてしまう。

スターシェードには、非常に黒く、しかも極端に薄いコーティングが必要だった。

ZeCoatが開発したコーティングは、高い微細構造ではなく、非常に薄く部分的に光を透過する金属層と誘電体ガラス層を何層も積み重ねる方式を採った。層の厚さを精密に調整すると、光がナノメートルサイズのキャビティ内で定在波を形成し、その間に金属層がエネルギーを吸収する。

カーボンナノチューブが深い森の中で光を逃げにくくする方式だとすれば、こちらは薄い層の中に光を繰り返し滞在させる方式に近い。

厚さは従来検討されていたコーティングのおよそ100分の1だった。長さ50センチメートルの試験用スターシェードの刃に適用すると、反射光は約20分の1に減った。1

鋭い形状を保ったまま、必要な光吸収性能を得たのである。

99.995%を吸収した炭素の森

だからといって、最小反射率の記録に意味がないわけではない。

2019年、MITの研究チームはアルミニウム上にカーボンナノチューブを成長させている途中で、異常に黒い表面を発見した。MITは、入射光の少なくとも99.995%を吸収すると発表した。当時知られていた他の超黒色材料と比べて、戻ってくる光の量は約10分の1だった。

原理は第1部で見た初期Vantablackと似ている。多数のカーボンナノチューブの隙間に入った光が何度も向きを変え、外へ逃げる機会を失う。

興味深いのは、研究チームの目的が超黒色記録ではなかったことだ。アルミニウム表面の自然酸化膜を壊し、カーボンナノチューブと金属を直接結合させる方法を研究している過程で、予想外の光吸収性能を見つけた。2

では、99.995%より小さい数値を持つ材料は、常にそれより黒くないのだろうか。

光の波長を変えると答えも変わる。

人には黒く見える物体が、センサーには明るく見えることがある

日本のKoyo Orientが製造するMusou Blackは、刷毛やエアブラシで塗れる超黒色アクリル塗料だ。

光は波長によって性質が変わる。人が見る可視光はおおよそ380ナノメートルから780ナノメートルの範囲にある。メーカー資料によれば、Musou Blackは可視光の約99.4%を吸収し、その中央付近にあたる550ナノメートルでは約0.6%が反射される。

波長が長くなると結果は変わる。950ナノメートルでは反射率が2.0%、1500ナノメートルでは10.7%まで上がる。どちらも人の目には見えない近赤外領域だ。

人には非常に黒く見える。しかし1500ナノメートルを使うセンサーにとっては、入射光のおよそ10分の1を返す表面である。

Koyo Orientは赤外線機器向けに別の超黒色材料も開発している。IR Flock Sheetは550ナノメートルと950ナノメートルで反射率0.3%、1500ナノメートルでも約0.5%を示す。LiDAR、マシンビジョン、赤外線センサー試験などが主な用途だ。3

人の目にはどちらも黒い。

機械にとっては、同じ黒ではない。

黒すぎると、自動車の形まで消える

波長を一つに固定しても、「黒い」という問題はまだ一つ残る。光がどの方向から入り、どの方向へ戻るかによって、同じ表面でも見え方が変わる。

2019年、BMWはX6の一台にVantablack系コーティングを施した。しかし最も黒いVantablackを選んだわけではなかった。

使われたのはスプレー型のVBx2だった。すべての方向へ戻る光を合計した全半球反射率(THR)は約1%だ。依然として非常に黒いが、初期Vantablackよりは多くの光を残す。

理由は車体の形だった。凸面と凹面、光を正面から受ける面と斜めに受ける面では、戻す光の量が異なる。私たちの目は、その明るさの差から車体の曲面や三次元形状を読み取る。

反射を減らしすぎると、その手がかりまで消えてしまう。Surrey NanoSystemsは、初期Vantablackを使っていたらX6の三次元的な形状感はほとんど失われていただろうと説明した。VBx2の1%の反射率は、車体のシルエットや曲面が分かる程度の光を残した。

Vantablackを塗ったX6は一台だけ制作された展示用ショーカーだった。Surrey NanoSystemsは、VBx2を日常走行に耐える自動車用塗料にするには、耐久性を大幅に高める必要があるとも述べている。4

反射光は取り除くべきノイズになることもあるが、物体の形を知らせる情報でもある。

日光の下で黒い車を見ると、この方向性は簡単に確認できる。車体の大部分は黒く見えていても、見る位置を変えると、ある瞬間に一つの面が明るく光る。

光が表面に入る角度を入射角、その表面を見る角度を観察角としよう。同じ表面でも、この二つの角度の組み合わせが変われば、目やセンサーへ戻る光の量も変わる。

これを詳細に測定する方法がBidirectional Reflectance Distribution Function、略してBRDFだ。

名前は長いが原理は単純だ。入射角と観察角を変えながら、それぞれの組み合わせでどれだけの光が戻るか測る。どの方向から照らし、どの方向から見ると表面がどれだけ明るくなるのかを地図にするようなものだ。

2026年に発表された研究では、Vantablack、Musou Black塗料、Musouの黒布、黒いベルベット、一般的な黒塗料を同じ装置で比較した。研究チームは材料ごとに2万4488通りの入射角・観察角の組み合わせで反射輝度を測定した。

その値を暗い順から明るい順に並べると、材料ごとに違いが見えた。中央値ではMusouの黒布が最も低かった。つまり、測定した全角度の組み合わせにおける典型的な反射水準が特に低かったという意味だ。

一方、明るい側の端ではVantablackが優れていた。全測定値のうち明るい側1%に近い99パーセンタイルでも、Vantablackの反射が最も低かった。他の材料が特定の角度で比較的明るくなる場合でも、Vantablackはその反射をより強く抑えた。

簡単に言えば、Musouの黒布は典型的な角度の組み合わせで特に暗く、Vantablackは明るい反射が生じやすい不利な角度でも最も暗かった。

研究チームはBRDFデータを使って各材料でできた球をコンピューター上に再現し、36人にどの表面がより暗く見えるかも評価してもらった。照明が強くなるほど一般的な黒塗料と超黒色材料の差は大きくなり、VantablackとMusouの黒布は三つの照明条件すべてで最も暗いと評価された。人の判断と物理的な反射測定はかなりよく一致した。5

バッフルには別の「黒」が必要になる

望遠鏡やカメラの内部には、レンズ周辺で反射した光がセンサーに入らないよう遮る黒い遮光構造がある。バッフル(baffle)だ。

バッフルの要求条件はスターシェードとは異なる。極端に薄い刃先を維持する代わりに、さまざまな方向と広い波長域の光を抑え、複雑な金属部品に安定して適用できなければならない。

2025年に発表された韓国の研究チームによる研究は、光学機器に使われるAl6061アルミニウム合金上にカーボンナノファイバー(CNF)を直接成長させる方法を扱った。

カーボンナノファイバーが光を吸収する原理はカーボンナノチューブと似ている。密集した炭素構造の隙間に入った光が何度もぶつかり、外へ逃げる前に吸収される。

課題は、この構造を実際のアルミニウム部品上に均一かつ強固につくることだった。

研究チームは、アルミニウム表面の多孔質酸化層内にニッケル触媒を配置し、その後、熱化学気相成長(CVD)によってカーボンナノファイバーを直接成長させた。別に作った黒い膜を貼るのではなく、部品表面から超黒色構造そのものを成長させたのだ。

黒アルマイト処理Al6061のクロムを多く含む表面層も役割を果たした。研究チームは、クロムとニッケルの界面が触媒を安定化し、CNFの均一成長やコーティングの機械的・紫外線安定性に寄与すると分析した。

最適化されたコーティングは、0.3〜2.5マイクロメートルで平均約99%、2.5〜15マイクロメートルの赤外領域でも平均約98.5%の光を吸収した。複数の入射角でも高い吸収率を維持した。

表面は水をよくはじき、機械的刺激や紫外線試験でも安定していた。広い波長域と多方向の光を扱いながら、実際の金属部品上で耐えるというバッフルの要求に合わせた結果だった。

最後の検証は実際のバッフルで行われた。BRDFデータを使ったLightTools・Zemax光学シミュレーションと複数入射角での実験では、従来の黒アルマイト処理より迷光が10デシベル以上減少した。デシベルは二つの値の大きさの差を対数比で表す単位で、ここでは迷光強度が10分の1以下に減ったことを意味する。材料レベルの吸収性能が、実際の機器での迷光低減につながった。6

スターシェードとバッフルはいずれも不要な光を消すが、必要とする黒は異なる。

スターシェードには鋭い縁を損なわない薄い黒が必要だった。バッフルには、複雑な金属部品上で広い波長域と多方向の光を吸収し、耐久性を保てる強い黒が必要だった。

「黒」を測る質問は長くなった

2026年に発表された超黒色材料のレビュー論文は、この分野をmaterial(材料)、scene(使用環境)、characterization(測定・評価)という三つの要素を合わせて見ることを提案した。

何でできているか、どこで使うか、どの条件で測るかを同時に見る必要があるということだ。7

だからといって、99.995%のような記録の意味が消えるわけではない。ごく小さな反射でも問題になる精密光学では、絶対的な反射率は今も重要だ。

ただし、一つの数字だけでは答えられない場合が増えた。

人が見る光なのか、赤外線なのか。どの方向から入り、どの方向へ出るのか。平らな試験片なのか、実際の部品なのか。装置に組み込んだとき、消したかった光は本当に減るのか。

「世界で最も黒い黒は何か」という問いは、今でも面白い。

研究者たちが実際に解いている問題は、もう少し具体的だ。

どの光を、どこで、何のために消したいのか。

注

1. NASA Scienceの2026年の技術開発報告は、スターシェードが遠方の恒星光だけでなく、私たちの太陽から来る散乱光も抑えなければならないと説明している。約300ナノメートルの刃先、従来のCNT・三次元微細構造コーティングの厚さ問題、ZeCoatの部分透過金属層・誘電体ガラス層による多層キャビティ構造、約100倍薄い厚さ、50センチメートルの試験刃で約20倍の反射低減も同資料で確認した。NASA Science

2. Kehang Cui・Brian L. Wardle, “Breakdown of Native Oxide Enables Multifunctional, Free-Form Carbon Nanotube–Metal Hierarchical Architectures,” ACS Applied Materials & Interfaces 11(38), 2019, 35212–35220. 原論文は広帯域反射率1×10⁻⁵を報告し、MITは測定限界を踏まえて“at least 99.995%”の吸収と紹介した。本文ではMITの保守的な数値を用いた。ACS/DOI · MIT AeroAstro

3. 可視光の範囲をおおよそ380〜780ナノメートルとした説明は、CIEとNISTの標準・技術資料に合わせた。Musou BlackとIR Flock Sheetの波長別全反射率と用途はKoyo Orient系メーカーが公開した製品データである。数値はメーカー参考値であり、同一条件の独立比較試験で再検証した値ではない。CIE · Musou Black · IR Flock Sheet

4. BMWの2019年X6は、Vantablack系VBx2を適用した一台限りのショーカーだった。BMWはVBx2の全半球反射率(THR)を1%と示し、Ben Jensenは初期Vantablackを使っていれば三次元的な形状感を失っていただろうと説明した。同じ公式インタビューで、VBx2を日常用自動車塗料として必要な耐久性まで高めるのは大きな技術課題だとも述べた。BMW Group

5. Jiří Filip・Radomír Vávra, “How dark is dark? A reflectance and scattering analysis of black materials,” Journal of the Optical Society of America A 43(7), 2026, 1037–1045. 材料ごとに有効な2万4488通りの入射・観察方向の組み合わせを測定した。Musou fabricは相対輝度の1パーセンタイルと50パーセンタイルが最も低く、Vantablackは99パーセンタイルが最も低かった。36人は実測BRDFからレンダリングした試料を三つの照明条件で評価し、VantablackとMusou fabricはすべての照明強度で最も暗いと評価された。Optica/DOI · arXiv 公開原稿

6. Geun Tak Yuk et al., “Direct CVD Growth of Robust Carbon Nanofiber-Based Super Black Coatings on Complex-Curvature and Commercial Anodized Al(6061) for Enhanced Stray-Light Suppression in Optical Baffle Systems,” ACS Applied Engineering Materials 3(9), 2025, 3049–3064. 論文は2025年9月17日にオンライン公開され、9月26日号に掲載された。Ni触媒の統合、Cr–Ni界面、300〜2500ナノメートルで平均99%、2500〜15,000ナノメートルで平均98.5%の吸収、機械・UV安定性、撥水性、実際のバッフルで従来の黒アルマイト処理に比べ10dB超の迷光低減を報告した。ACS/DOI

7. Peilin Yang et al., “Ultra-Black Materials: Fundamentals, Design, and Applications,” Laser & Photonics Reviews 20(16), 2026, e02136. 2026年5月29日に初公開されたレビューで、超黒色研究をmaterial–scene–characterizationの三元フレームで整理し、単一の反射率数値から多次元計測へ評価が拡張していると説明している。Wiley/DOI